2008-08

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さようなら、と君は手を振った

与えるだけの、見返りを期待しない愛情があることを、初めて知った
でも、その愛情が自分が欲しい愛の形と重なっていることを知った時には、もう遅かった…
永遠に続く幸せは、ほんとうに、どこにもないのですか?

さようなら、と君は手を振った (Holly NOVELS) (Holly NOVELS)さようなら、と君は手を振った (Holly NOVELS) (Holly NOVELS)
(2008/06/20)
木原 音瀬

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この本は木原音瀬さんの新装版となります。
なので収録作品を最初に読んだのは、8年ほど前、私が木原さんを好きな作家さんと認識していた頃です。
…こんな書き方をすると、今は好きじゃないんですか?とか訊かれそうなんですが、実は私の中で木原さんは他のどの作家さんとも違う場所にある気がします。

先ほどの話に戻るなら、好きか嫌いかの二択であれば、好きと言うことになるんですが、好きと言うよりは尊敬する作家さんとか、どんな本が出てもそれこそ、書き下ろしがたった2・3頁しか無い新装版でも買ってしまう、無視できない作家さんという方が、私の気持ちに近いと思います。……言い方は悪いんですが、抜けない棘に近い、とでも言ったほうが良いのかもしれません。

話が横に逸れてしまいましたが、私が木原さんを普通に好きな作家さんと思っていたのは、1996年発行のセカンド・セレナーデから、2001年発行の片思い辺りまでだと思いますが、当時、その中でも特に好きだったのが、「黄色いダイアモンド」とこの「さようなら、と君は手を振った」でした。
当時の自分が何を想っていたのかは判りませんが、今回、新装版が出されて、ほんの少しですが書き下ろしもあると言うことで、再度購入して、何年かぶりで読み返しました。
収録作品は4本。表題作でもある「さようならと、君は手を振った」とその続編である「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」、そして、啓介の子供貴之を描いた「空を見上げて、両手広げて」の1と2となります。
さようなら〜は、つい最近、ergoでコミック化されたばかりなのでストーリーを知っている方も多いと思いますが、17才の夏に短い恋をした従兄弟同士、啓介と誠一が10年後に再会し、心と体を繋げたけれど、17才の頃の気持ちとは違って、互いの心はある意味すれ違ったままで。最終的に、互いに気持ちを残しつつ、それぞれの生活に戻っていく話です。

僕が〜は、その別れから5年後、結婚し子供にも恵まれた啓介がある日突然、妻から別れを切り出されるところから始まります。啓介は、妻と子供とそして、経営不振に喘いでいた旅館の全てをなくし、ある意味途方に暮れていたのですが、そこに誠一が啓介を迎えに来ます。
別れの日からずっと、啓介を取り戻すことを考えていたと言う誠一と、戸惑いながらも一緒に暮らしだした啓介ですが、昔とは違い優しくて啓介だけを大事にしてくれる誠一に、それでもいつも不安でした。
啓介には誠一との暮らしが何時までも続くとは思えなかったからです。そして、また、誠一も誰にでも優しく接する啓介の自分への気持ちが信じられず悩んでいました。
それでも、ある事件をきっかけに互いが本音で向き合おうとした矢先、啓介の元妻が亡くなり息子が残されたこと、その息子・貴之が父親と暮らすことを望んでいることが、啓介に知らされます。
息子を引き取らなければならないと思った時、一瞬でもそれを疎ましいと思った自分に恥じて、啓介は誠一の前から姿を消そうとしますが……。最終的に誠一と一緒に生きることを決意します。

空を〜は、いつでも自分より誠一を大切にする父・啓介に、もっと沢山の愛情を求めながら与えられてこなかった啓介の息子・貴之の話です。
きっかけは、啓介の同僚のホテルマン・柊が酔っぱらって貴之を抱いてしまった事ですが、貴之はその時に柊が口にした「愛してるよ」に、それまで与えられなかった「誰かの一番になりたい」との思いが叶えられるような気がして、柊に急速に傾いていきます。

そして、今回の書き下ろしである「空を〜2」は、ある日突然、柊が貴之の前から消えて数年後、柊と偶然再会した貴之の荒れる心模様と、未来への希望の種が描かれています。

この数編の話は、木原さんの書かれる小説の中では、かなり地味でインパクトのない部類になる話なのかなと思います。ある意味、すごく普通の恋だと思うし。
衝撃作とはほど遠い、でも、穏やかな皮膚の下に、よく切れるナイフで切り裂かれた傷口がある事を隠しながら、でもその傷口を愛おしんでいるような、そんな話だとも思います。
最初、享楽的で色々な意味でだらしなかった誠一が、啓介の与えるだけで何も望まない愛を知り、その愛を欲しいと思って初めて、自分のいい加減さを悔やみ、それでも諦めないで、5年後、一時は結婚して子供までいた啓介をやっと捕まえます。そして、今度こそ啓介を離したくなくて自分にできる精一杯を頑張るんです。でも、啓介は永遠に続く気持ちなど信じられなくて、誠一にのめり込めません。
この二人の温度差が現実的で絶妙な気がしました。
啓介の柔らかな優しさは、臆病さと背中合わせです。17才の一途な恋愛が夢でしかなかったと認識した時、啓介は幸せは永遠に続かないと諦めにも似た気持ちを受け入れたのかもしれません。
でも、その臆病さは、きっと、誰もがもっているし、逆に、好きだからこそ強くなりたいとも、相手を愛し続けたいとも、大切な人を幸せにしたい、と言う誠一のような気持ちも誰もが持っています。
本当に、普通の恋愛感情です。
でも、普通だけど、普通じゃないほど狂おしくて、愚かで、痛くて、熱くて、悲しいけれど、愛おしい。子供の前で啓介を組み敷き、抱いている姿を貴之に見せつけた誠一と、父としての自分と恋人としての自分の迫間に揺れ苦しみながら、最後に父(人)としての自分を捨てて、誠一のものになることを決意した啓介……その瞬間が胸に痛いです。

最後に、貴之。
可愛そうな子供のまま大きくならなければいけなかった彼の、喪失感や欠落を柊が受け止めて、受け入れてくれることを、その日が来ることを祈ります。
かわいそうすぎるよ……。貴之、ガンバレ!


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