2008-07

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君がこころの月にひかれて

誰よりも愛しているからこそ、何も見えなくなった
愛したはずの相手の言葉さえ聞こえなくなった
でも、愛していたからこそ、せめて自分の言葉を聞いて欲しかった

君がこころの月にひかれて (リンクスロマンス)君がこころの月にひかれて (リンクスロマンス)
(2008/04)
六青 みつみ

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久しぶりの六青さんです。
私的には六青さんは当たり外れの多い方ですが、今回は、当たり。
まず、時代劇が好き(水戸黄門とか結局見てるし冷や汗)で、特にお小姓と殿とか、陰間茶屋などに心惹かれる私としては、今回はその舞台設定からしてツボでした。

内容ですが、短くまとめたいと思いましたが無理そうなので、未読の方はご注意下さい。全部読んでしまうと、実際に読む時の楽しみが半減する可能性あり…?
幼い頃に津藩主・隆継に助けられ、小姓勤めをすることになった町人・葉之助は、その無垢で純粋な魂故に藩主の寵愛を受けますが、その寵愛と出自故に他の小姓達からは疎まれます。中でも、元・小姓組小頭の菊ノ丞(江戸家老の嫡男)は、葉之助の存在が自分から藩主の寵愛を奪ったと思い込み、深く彼を恨んだのでした。
転機は、葉之助の従兄にあたる吉弥との偶然の再会でした。それを機に、菊ノ丞が入念に張り巡らした奸計により、葉之助はならず者達に陵辱されたばかりかその姿を危絵に写し撮られてしまいます。
ボロボロになりやっとのことで養父の屋敷に戻った葉之助を、菊ノ丞の奸計により葉之助は吉弥と不義密通をしていると思い込んだ隆継は、切腹も手討ちさえ与えず冷たく屋敷から放り出します。
全てに絶望した葉之助は、屋敷を出たところで自らの命を絶とうとするのですが、生死の境を漂っているところを吉弥によって助けられます。
生きているのか死んでいるのか判らない状態を一年、それから全てを忘れて町人として生きて三年、葉之助が吉弥との新しい関係を受け入れることにしたその矢先、かつての養父が迎えにやってきます。葉之助の無実は三年も前に証されていたのです。
突然の迎えに喜んだ葉之助は、でも、この数年を吉弥に支えられ生かされてきたこと、その吉弥を受け入れようと決心したばかりだったこと、そして何より、過ぎてしまった四年の月日が葉之助を押しとどめます。
迎えを断り、吉弥と生きていくことを決心した葉之助ですが、その矢先吉弥が思わぬ大怪我を負い、その治療費の捻出のために恥を忍んで養父の元を訪れますが、養父は御用向きで出かけており、隆継と面会することに。
しかし、隆継の中にも色々な想いがあり、面会時間をひきのばしてしまいます。その、数時間が、葉之助を打ちのめし、吉弥のために身売りさせることになるとは思いもせずに。
我が身を売り大金を用意した葉之助ですが、折からの大火に巻き込まれ、気を失います。そして、次に目が覚めた時、その身は藩邸にありました。荒淫と大火の熱で体調を崩した葉之助はそのまま藩邸で数ヶ月を過ごしますが、参勤交代で隆継が江戸を去った翌日、藩邸を辞します。
そして、吉弥の元に戻った葉之助を、一年後、隆継が再度迎えに来ます。全てを承知の上で共に生きるために……。

文章にしてみると、なんだかどこかのメロドラマみたいですね(苦笑)
色々あっても、好きなんだからいいじゃないか、と言ってしまえる今風ではない時代の設定が、そうさせるのでしょうか?何度も何度も、これでもか!と思うくらいに話は行きつ戻りつします。
隆継の寵愛を一身に受けて幸せで、人を疑うことも上手に嘘をつくことも知らなかった葉之助も、何度も痛い目に遭います。そして、いつか、愛した人に対しても、自分に対しても「嘘をつくことに慣れてしまった」と乾いた思いを抱くようにもなるのです。
愛した人のために、そして、恩義ある人のために、自分を犠牲にしていく葉之助。
葉之助を愛したために疑心暗鬼に陥る隆継。
隆継への忠誠と出自へのプライドが複雑に絡まり合い理性と分別をなくしてしまった菊ノ丞。
葉之助の心が無いことを知りつつ傍にいて欲しかった吉弥。
……なんだか、みんな悲しい。
最初、陰間茶屋へ売られかけた葉之助が隆継に拾われた頃が、結構幸せそうだからこそ、悲しい。
相手を思いやりながら、でも、その為にこそ、その人に嘘をつくことに慣れる、っていうのは哀しい。
多分、その時、自分の心が痛んでいることに気づいていても、自分の心が哀しんでいることには気がつけないんじゃないのかな。
だから、できもしない無理をできると思う。
自分に対してつく嘘は、一時有効でも、いつかは破綻するのに、嘘を信じたつもりで無理をする。
もう少し、隆継のお召しが遅かったら、葉之助は壊れていたのかも…。
メロドラマなどと言いつつ、実は結構、いえ、正直に言えばかなりのめり込んで読みました。自分のオバサン体質を確認したような気がして嫌なんですが、こういうドロドロ(というよりグルグル?)、結構好きみたいです。
ただ、前半に比べて後半走っている感じがすることと、吉弥が可愛そうなことが難点かも。
吉弥……いい男です。身分も年齢も高いけど、葉之助のことになると我慢が効かない隆継よりも余程大人で、葉之助の気持ちを思いやることができます。
吉弥と隆継の葉之助への想いは同じ方向を向いていますが、その色形は全く違っていて、ある意味、吉弥の想いは恋人を想うというよりは、親兄弟に対する想いに近い色をしているのかもしれません。
でも、隆継のは完璧に“恋は盲目”パターン。
情人だからその全てを自分のためだけに置いておきたい、少しでも離れていたくない、他の誰にも取られたくない。好きだからこそ、何かあると、冷静になったり相手の言い分を聞く余裕さえなくしてしまう。思いやりって言葉は何処に行ってしまったのか?と勘ぐりたくなるほど、自己中になってゆく。
それでも、どちらも葉之助が大切なことには違いないから、どちらがどうとは言えません。
葉之助の選択は、ある意味刷り込みに近い物から始まっているのかもしれないとさえ、思ったりもします。

さて、、、、恋は盲目(良い意味でも悪い意味でもですが)、と言う言葉を地でいった隆継。
幼い頃に苦労し、知性も分別もある隆継でさえ、自分を律することができなかった「恋」と言う感情を、私自身は怖いと思うのか、それとも、手に入れたいと思うのか、否定したいのか……
最後に、ふとそんなことを思いました。
──あなたは、どう思いますか?
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